倉沢良弦『ニュースの裏側』

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日米通商交渉とTPP

日本に輸入される農産物は、年平均で1兆3,000億円規模にのぼる。
アメリカの農家にとって、日本は重要な市場なので、今回の日米首脳による通商交渉はアメリカ国内でも注目が高かった。今回、関係省庁の実務者が時間をかけて交渉してきた点が実り、協定の締結にいたったことに胸をなでおろしている関係者は多いと思う。
トランプ大統領は次期大統領選を控え、農村部の票が目当てであったことから、むしろ譲歩する形で妥結するだろうという大方の予想通りになったと言ってよく、日本が問題視していた自動車等の工業製品に関する関税については、先送りの形となった。
毎日新聞は24日の記事で、日本側が譲歩したとの見方を示しているが、必ずしもそうではない。先日のトウモロコシの前倒し輸入も含め、今回、農産品に関しての減税は、日本市場にとっても得策であり、アメリカが主張していた日本車の輸入関税増税については、先送りになった形で、むしろ安倍総理トランプ大統領の顔を立てたと見るべきだ。
事実、日本側はライトハイザー米抽象代表に対し、仮にアメリカが一方的な自動車関税(米通商拡大法232条適用)に踏み込めば、今回の協定は破棄されると警告している。元々、有効な関係にある日本といがみ合う気の無いアメリカは、日米関係を強固にしておく方が、対中政策上も都合が良い。
また、既に運用が開始されているTPPに批准した各国は、TPPの基準が二国間貿易上も基準となるため、TPPから撤退したアメリカに対しても、特にアメリカが売り込みたい農産品については、譲歩せざるを得ない形に持ち込んだ。事実、アメリカ国内でもTPP離脱を疑問視する声は根強い。
反対に、対中強硬路線を貫くトランプ政権は、これで中国に対しても強気の姿勢になる可能性が出てきた。
実は、TPPに関心が強いのはむしろ中国で、対日融和策に転じつつあるのも、この点があるからだ。来年5月に予定されている習近平主席の国賓としての来日に合わせ、アメリカより先にTPPに加盟しておくことも視野に入れているだろうし、そのためイギリスのジョンソン首相とも連携を模索しているだろう。
中国は香港問題を念頭におきつつも、通商交渉でアメリカに一方的にやられっ放しの現状があり、習近平主席の外交実績という点からも、TPPをその材料に置くことは、十分に考えられる。
今回、日米通商交渉のたたき台になったTPPは、日本では不要論が叫ばれていたりもするが、実は様々な貿易交渉に波及効果を見せている。