倉沢良弦『ニュースの裏側』

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日米で朝鮮半島を追い込んでみた

日韓関係が冷え込み、両国国民は今後の関係改善を心配しているようだが、日本政府がここまで韓国政府を追い込む意図はどこにあるのだろうか?
もとを正せば、保守系朴槿恵政権を倒し、韓国国内にあった格差問題、失業率の悪化の不満を爆発させて文在寅大統領が誕生した。大統領制を敷いている国の常で、中道政権が交代するということはまずない。必ず時の政権は右か左にブレる。左翼政権で緊縮財政になり経済が疲弊すれば保守系右派が台頭して、財界人が喜ぶ政府が誕生するし、格差が広がり失業率が上がれば、労働者の票を獲りに走る差は政権が樹立される。
文在寅政権樹立後、文在寅は一貫して韓国の民主化をスローガンに掲げている。それも、1980年の光州事件にまで遡り、保守系の財閥や軍部主導の政権への批判を続けてきた。つまり労働者の革命を掲げ、左派政権であることを隠すことはしていない。また、文在寅の南北統一の意志は固く、民族統一を悲願としていることは、地方議員の時代から有名であった。
米朝関係の悪化と時を同じくした文在寅政権の誕生が、そのまま米韓関係の悪化と日韓関係の緊張に向かうのはむしろ必然だったかも知れない。東アジア地域での存在感を示したい文在寅は、中国よりの外交姿勢や北朝鮮に対する太陽政策を見せることで、トランプ大統領の神経を逆撫でしてきた。THAAD配備に逡巡したり、AIIBで中国よりの発言をしてみたり、米韓同盟を刺激する発言が相次いだ。
一方、国内政策では比較的好調な半導体事業とは裏腹に、失業率や格差問題は解消されるどころか、悪化する方向にある。最低賃金の強引な引き上げは、就職率の悪化を招き、中小企業の倒産を引き起こしている。
国内での失政による批判を回避する目的で、金正恩との会談を行い、北朝鮮との融和姿勢を示し6カ国協議開催を目指すも、ロシアも中国もアメリカから制裁や関税圧力を受けて関係が冷え込んでいる以上、6カ国協議に臨む下準備は出来ているとは言えない。
G20の最中、存在感の希薄な文在寅は、トランプ大統領金正恩DMZにおける会談を演出してみたものの、会談は両者が久しぶりに会ったというだけに留まり、しかも南北の休戦協定にサインしていない韓国は、結果的に蚊帳の外という形になった。
日本は、足掛け3年にわたり、半導体用材料三品目の輸出入管理について韓国に説明を求めるも、一切の回答は無く、まして日米欧の監視体制の下、明らかに北朝鮮への瀬取りと見られる事実関係も証拠集めが進む中で、日本政府は対韓国の輸出品目にホワイト国指定を解除した。
文在寅政権後、いわゆる徴用工訴訟や、日本大使館前に設置されたいわゆる従軍慰安婦の像設置問題等、日本を刺激する事案が続いたが、文在寅は民間の問題だとして取り合わず、そのことも日本政府の不信を買う要因になっていた。
これら日本政府の動きにアメリカをはじめとする各国は二国間の問題であり、静観を決め込んでいる。それも当然と言えば当然で、全く関係の無い国連やWTOの場で、自国の主張を繰り返すだけの韓国に食傷気味というのが本音であろう。
日本政府の動きに過剰に反応する韓国政府は、何に危機感を持っているのだろう。それは取りも直さず、文在寅政権の失政を覆い隠す糸が透けて見えはしないだろうか。それでなくとも立て直しに窮している国内経済の不安定さ、主軸となる半導体産業の低迷は、日本政府の原材料輸出管理の運用が、そのまま韓国経済に打撃を与えていることを物語る。元経済産業相官僚の細川昌彦氏は、折に触れ今回の日本政府の輸出品目管理に関して、たちまち特段の影響が出るはずは無いと繰り返す。言い換えるなら、専門家の指摘通りに韓国政府が受け止めていれば、動揺や混乱を来す筈は無いのだが、そうはならない韓国政府は、現在の韓国経済の窮状の原因を日本に押し付けていると見られても仕方無い。
まして、今回、在韓米軍駐留経費に関して、5倍以上の負担を求めたアメリカ政府の動きは、直接的な韓国政府負担という意味での痛手を被る筈であるにも関わらず、韓国政府の反応は悪い。トランプ大統領が激怒したのは、文在寅が南北統一を目指すかのような発言をしたり、韓国政府高官や与党議員から出たGSOMIAからの離脱発言であることは論を待たない。
文在寅はそのことの意味を全くと言っていいほど、理解していないということだ。
GSOMIA離脱は、韓国民の生命の危険を意味する。文在寅は北との融和を持ち出すことで、世論を喚起したい意向だが、文在寅の意図に反し、国論は二分の様相を見せている。まして、GSOMIA離脱まで言い出すと、それはそのまま自分たちの命の危険を大統領が放棄したと見做すことでもある。また、今回の日韓、米韓の緊張関係を逆手に利用するかのように、北朝鮮は短距離ミサイルを撃ち、文在寅の電話に出ようとしない。米朝協議の場で有利に展開しようと画策する金正恩にとって、文在寅はもはやただ利用するだけの存在になってしまっている。日本は日本の立場で、またアメリカはアメリカの立場で韓国に方向転換を図っている。無理を通すな、東アジア諸国の情勢を見極めよ、と迫っているのだ。
文在寅の現在の外交姿勢は、彼の政治力の欠如を表す。問題をますます泥沼化しようとする彼の姿勢は、いずれ国内から猛反発を食らうであろう。野党議員からはそのような声が出始めているし、韓国政府の間違った世論誘導を懸念する研究者は、日本に来て、韓国国民は正しい歴史認識を持つべきだと訴えている。
グループAからグループBに韓国の扱いを変えた日本政府に対し、韓国は最下層に日本をグループ分けした。また、日本は今後、ビザ発給や金融制限など、打つ手はいくらでもある。アメリカにしても同様で、アメリカの金融機関がドル取引を認めているのは、日本の金融機関の信用状が担保なのだから、仮に韓国への信頼が損なわれたとアメリカが判断すれば、ドルの信用状発給が停止になる恐れがある。もちろん、それは最悪のシナリオではあるのだが、現在、韓国が行なっている過剰反応に比べればはるかに強大な効果を発揮する。
文在寅は、そのあたりをよく理解していないと思えるのだ。
そこまで追い込んだのは、アメリカと日本である。ただし、改心の余力も残しているのも事実だ。
これで文在寅弾劾となれば、次には保守政権が生まれるのだろうが、国際社会の信任が損なわれるのも事実だ。
韓国の冷静な対応が重要である。