倉沢良弦『ニュースの裏側』

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習近平氏国賓来日やChinaからの渡航者を全面禁止に出来ない本音とは?

1月下旬になり、正式に人から人への感染が確認された新型コロナウィルス(SARS-CoV-2:ICVT(世界ウィルス分類委員会))は、現在までに世界中でCOVID−19(新型コロナウィルスによる急性呼吸器疾患)を発症させていて、既に多くの死者を出している。
日本でも高齢者を中心に亡くなる方が出始め、重篤な状態で入院している患者がいるとの情報も発信されている。
ここにきて、日本政府の対応に甘さがあったのではないか?等、政府批判を繰り返す声も相次いでおり、また、未だChinaからの入国を全面禁止にしない対応に疑問を呈する発言も目立つ。

私自身は、Chinaからの入国制限をしても、それは一時的に流行を遅らせる効果しかないという立場だ。
また、これまでに分かってきた感染力の高さに比べ、当初懸念されていた致死率の高さは、それほどではないのではないか?というデータも出揃ってきた。厚生労働省は、予防に関しては季節性インフルエンザと同等の予防策を講じることが大切であるとのアナウンス以外、多くの方が集まる行事等には自粛要請ではなく、開催に関して検討してほしいということを述べるに留めている。
改めてデータで見ると、日本では、毎年、季節性インフルエンザで平均すると2,500〜3,000名程度の死者が出ている点を忘れてはいけない。さらに今年は、新型コロナウィルスによって、従来よりも広範な予防策がとられるため、寧ろ、インフルエンザの流行自体も抑えられる可能性がある。
確かに今回の新型コロナウィルスは人類が初めて直面するものではあるが、既にゲノム解析により、SARSウィルスの一種であることが分かっている。加えて、現在までのところ、医療機関における対応は対症療法に限定されるものではあるが、既に製薬メーカーは新薬の開発に着手している。

https://president.jp/articles/-/33053?page=2

確かに初動において日本政府の対応が後手に回った感は否めないが、そもそも、China国内で新型コロナウィルスが広範に拡散された時期は12月と言われている。つまり、その時点で既に多くのChina国民が日本に来ていた。
また、武漢市における感染拡大を許した背景には、China中央政府の対応の遅れがあったことも、否定できない事実だ。
私は責任の所在を云々したいのではなく、現状を踏まえた上で、日本国民の冷静な対応が大切だと言いたい。つまり、Twitter上でも何度も指摘している通り、正しい知識をもって、正しく冷静に今回の新型コロナウィルスを恐れる必要があると思う。

さて、これら新型コロナウィルスの世界的な感染拡大と同時に、まだまだChina国内では新型コロナウィルスの感染が鎮静化したとは言えない状況であるが、この時期に何故、日本政府は習近平氏の国賓来日を取りやめないのだろうか?
これには、背景に幾つかの理由があると考えている。
まず、日本側がChina政府に国賓来日を取りやめるよう進言することは、国際儀礼上あり得ないと考えられる。令和元年、日本は天皇陛下即位後初の国賓としてトランプ大統領を招いた。例えば、オバマ大統領が国賓として来日したのは、3回目の来日の時だし、ブッシュ(息子)大統領は、国賓として来日はしていない。
これまで、日本が国賓として来日する国家元首を迎える場合、一つには相手国との間に国家の経済規模や国際的地位を秤にかけて国を選ぶことはしていない。また、日本が国賓待遇で国家元首を迎える場合、政治的な行事日程は原則として準備されない。あくまでも国家元首として日本国の天皇陛下にお会いいただくことを第一としている。その意味で、日本側が相手国の国家元首をお迎えするという姿勢は常に変わらない。仮に、Chinaの新型コロナウィルスを理由に習近平氏の国賓来日を日本側から延期の申し出等を行うとしたら、それは日本が相手国に優劣をつけたことになるし、国賓扱いである以上、天皇陛下のお立場に泥を塗ることになるので、絶対に出来ないのだ。日本国天皇陛下は、世界中の国家元首の中で、最も上位に位する。その国家元首が、相手国の事情で国賓扱いを延期するというのは、明らかに相手国を下に見ていることになり、天皇陛下の国際的なお立場を下げることになるのだ。
つまり、この場合、China政府が正式に国内問題により習近平氏の来日を延期させていただきたい、と申し出るのが本当なのだ。Chinaは面子の国である。それは国内外に対して常に変わらない。言い換えれば、国内事情によって国際的な立ち位置を変えることが出来ない。それは習近平体制を堅持するChina中央政府の事情が大いに関係している。それでなくとも新型コロナウィルスの対応について、国内では不満が高まっている。その上、日本への国賓来日をChinaの事情で延期ないし中止したとなれば、習近平の権威を落としかねない。
日本政府がChina政府に、私たちは待っていますよ、という態度を崩さないのは、China政府に対する揺さぶりでもあるのだ。
この点を、地上波もどのメディアも指摘しない。

次に、China全土からの来日を全面禁止にしないのは、さはさりながら、日本とChinaとの経済的な結びつきによる。
仮に日本政府がChinaからの来日を全面禁止にしたら、在中邦人を全て引き上げなければならない事態になりかねない。10万人以上いる在中邦人を全て日本に引き上げさせることは事実上不可能であるし、新型コロナウィルス問題が鎮静化するまで待つとなると、その経済的損失は計り知れない。それほどに日本企業がChinaに依存してしまっている現状は否定できないものがある。
2018年時点で、日中の輸出入総額で実に35兆円にのぼる。
China政府にしてみれば、これだけの経済規模の結びつきがある両国関係に亀裂を入れるつもりか?という一種の脅しと共に、日本政府もその経済規模に軋轢を加えるような、刺激を与えるような政策を、一朝一夕に決めることは出来ない。
だから、慎重に具体的な臨床データ等を集積して、今回の新型コロナウィルス問題に対して、対応策を検討し実施している。

これら二点について、今少し、日本国内でも理解が進まなければ、日中関係の本質が見えなくなるように感じる。