倉沢良弦『ニュースの裏側』

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WHOの宣言批判について

WHOは1月30日の緊急会議において、2019-nCoVについて現時点での見解を述べ、緊急事態にあたると宣言した。にも関わらず、人と物の移動に関しての制限を加えることには言及しなかった。つまり、それらは各国の判断に委ねられることになった。
この点について、筆者が思うことを書いておく。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/01/who-6.php

この発表の中で、テドロス事務局長は前回のWHOの見解を否定し、現時点で脆弱な医療制度の国への感染拡大に大きな懸念があるとの見方を示した。つまり、湖北省地域にいる外国人の国外脱出や流入する外国人への検疫体制、仮に発症した場合の医療体制が確立していない国にこそ、感染拡大への懸念があり、WHOは世界規模での感染拡大リスクを考慮した。
加えて、2002−2003年のSARS流行時における経済損失約330億ドルということを考慮したものと考えられる。
今回の2019-nCoVはその感染拡大スピード、感染地域の規模、人から人への感染力の強さにおいてSARSを上回っているとされており、Chinaの春節休暇時期に重なったこともあり、感染者拡大に拍車が掛かった。既に、WHOの宣言を待たず、先進国やChina国民が多数流入する国は、Chinaからの帰国者、China国民に対し入国制限を加えている。それでも尚、各国で感染者が発生していることは、前回のコラムでも触れた通り、China中央政府の対策の遅れが原因であることは論を待たない。
WHO宣言は、医療体制が確立していない国への感染拡大と世界経済への影響の拡大の二点に絞ったという見方が妥当だ。
China中央政府に配慮した宣言内容だ、という批判をする声が聞かれるが、実際に現時点でSARSよりも感染拡大が大きくなることが分かっていることで、その経済損失も計り知れない金額になることが容易に想像出来る。日本とChinaの関係に限っても、China全土に進出している日本企業は17,000社あると言われており、加えて生産拠点をChina国内に持つということは、その生産物の流通、消費にも大きな影響を与えることになる。
これは概算だが、今回のウィルス拡大で世界的な経済損失は1,000億ドル(日本円10兆円)規模にのぼるとの見方もある。
WHOが宣言内容に慎重になるのはこの点があるからだ。特にChinaとの経済交流が大きな国ほど、被害が大きくなる。ChinaがWHOに出資しているからという意見もあるが、出資比率はアメリカ、日本に次ぐ第3位だ。テドロス事務局長は習近平と会談し、今後のWHOの発表内容に手心を加えるよう要請し、事務局長がそれに応えて発表内容を手控えたというのは、都市伝説とは言わないが、その影響力を懸念したと見るべきだ。
仮にWHOが人と物の動きに制限を加えるよう各国に宣言したら、日本国はChina駐在の邦人を全て帰国させ、China国内の全ての日本企業が機能停止する。企業が海外進出するにはそれだけのリスクを抱えることにもなるが、一方で日本国は海外にいる日本国籍を有する全ての邦人保護の責務を有するため、非常事態に陥った場合、全ての経済活動がストップすることにもなる。今回のような病原体を原因とする場合、終息宣言がなされるまで継続される。SARSの時はウィルス特定から終息までに半年間を要している。今回の2019-nCoVは、感染拡大規模が大きい為、更に長期間を要するとの見方が大半だ。
WHOは医療体制が確立している先進国には、各国の自主的な判断と対応に任せ、経済活動への影響が最小限に留まるよう要請している。WHOの懸念はむしろ医療体制が整っていない、或いは衛生環境が整っていない途上国なのだ。
今回のWHOの宣言に限って言えば、背景にはそのような慎重姿勢があると見るのが正解ではないだろうか?

勿論、日本一国に限れば、邦人保護を最優先に日本国内へのウィルス感染拡大を最小限に食い止めることは最重要課題であり、そこにおいて政府対応の是非は追求する必要がある。