倉沢良弦『ニュースの裏側』

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日本がウクライナへの賠償金を補償してはどうか?

1月11日の報道によると、イラン政府は公式にウクライナ機の撃墜はイラン側の誤射であることを認めた。

https://www.sankei.com/world/news/200111/wor2001110029-n1.html

既に、カナダのトルドー首相もアメリカ政府も公式見解としてイラン側の過失を認定している。恐らく、様々なデータに基づいてそれ以外の見方は存在しないという両国間での確認した上での発表だった筈だ。
言い換えるなら、事態を悪化させない為、カナダ政府は自国民に対して、またアメリカ政府はイラン側に自省を求める為の発表だったとも言える。
アメリカとイランの間に緊張が高まるこのタイミングで、オマーンのサヒド国王が死去し、ウクライナ機が誤射により撃墜されたことは、アッラーの思し召しとも思えるような気がする。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020011100359&g=int

アメリカとイランとの間に起きた不幸な出来事の発端は、イスラエル建国にまで遡ることが出来るが、直接的に両国間に緊張が走った最初の事件は、1979年に起きたアメリカ大使館人質事件であろう。第二次大戦後、パフラヴィー皇帝による改革開放路線は、イラン国内に資本主義と宗教的戒律に縛られない社会の実現を与えたが、1970年のオイルショック以降、格差社会に不満を持つ民衆の蜂起によって、イラン革命が起きた。以降、イランは常に内戦とテロの間にあって、中東の大国としての歩みがサウジアラビアとは全く違った道を行くことになる。
政情が安定しない中で、イランの実質的な支配を行なっているのがイラン革命防衛隊で、それはイラン政府の上位に位置するものでもあり宗教指導者直轄部隊という肩書きを用いた強硬な政治力を有してしまった。
元々、イランの改革開放を手助けしたのはアメリカであったが、イランの革命思想家の多くは、イランの混迷はアメリカが齎らしたものだとの認識で一致し、イラン国内にもその考え方を浸透させてきた。その決定的な要素となったのが、イラン・イラク戦争時、アメリカがイラクに加担したことにあるだろう。
一方、オイルショック後、元々良好な外交関係を維持してきた日本とイランであったが、サウジアラビアアラブ首長国連邦同様、イランも日本のエネルギー供給源として重要な役割を持つことになった。憲法の縛りにより国軍を持てない日本は自衛隊の装備充実を図りつつも、外交的には日米安保の中、経済支援、途上国への開発援助という形で影響力を行使してきたが、対イランについてはそれ以上にペルシャ文化との交流という側面もあって、イラン国民が日本と日本人に好意的感情を抱く元にもなっている。

アメリカと国際社会への影響力を維持する為には、イランにとって核開発は必須であった。2006年当時、アフマデネジャード大統領は核不拡散条約下にあっても平和利用という名目で核開発を止めようとはしなかったが、2009年、IAEAが数年以内にイランは核兵器保有可能な状態にまで来ているとの見解を示し、一気にアメリカとの間での緊張感が高まりを見せた。
2015年の大統領選当時から、トランプ大統領はイランが核合意の中身を履行していないとの理由で、イランに対する経済制裁の強化と核合意からの離脱を匂わせ、翌年、その宣言を行った。
アメリカが行っているイランへの経済制裁は、イランの国内経済を疲弊させ、そのまま反米感情の広がりとなっているが、同時にイラン国内のみならずイラク国内やシリアでも暴れまわっているスレイマニ司令官率いる革命防衛隊は、イラン政府のコントロールすら及ばないところまで暴走していて、イラン国内でもその不満は高まっていた。
また、イランの核開発に関して、中国と北朝鮮の関与はその最初期から指摘されており、前回のコラムでも触れたように、米中関係の悪化、米朝関係の揺れ動きの背景にはイランの核開発も大きな要素として見るべきだろう。
この点で、トランプ大統領が手を組んだのが安倍総理であった。国際的な国家間の協調関係において、国家元首は相当な政治力を必要とする。政治経験の無いトランプ大統領は、安倍総理の持つ外交力に大きな期待を寄せた筈で、アベノミクスにより上向いた日本経済により安定多数を維持している自民党の基盤を背景に、主要先進国の中で最も長期の政権を維持している安倍総理トランプ大統領にとってこれほど力強い協力者はいない筈だ。

昨年末から一触即発の事態に発展したと見られているアメリカとイランの関係であるが、筆者はそうは見ていない。
イランは国内経済が疲弊し、アメリカは世界の警察をやめたことは、前回のコラムでも触れた通りで、有り体に言えばトランプ大統領ハメネイ師も戦争状態に突入することは望んでいない。
ところが、最悪のタイミングでウクライナ機誤射が起きてしまった。
安倍総理は中東三カ国歴訪を決定し、自衛隊ペルシャ湾派遣を決定した。このタイミングで中東諸国内での仲介役として重要な立ち位置にあったサヒド国王が死去し、イランは寄って立つ拠り所の一つを失ってしまった。
民間人を殺されたウクライナと同機に搭乗していて多数の犠牲者を出したカナダのトルドー首相は、国内世論の鎮静化の為にも黙っているわけにはいかない。ウクライナはイランに賠償を求め、トルドー首相も同様の発言を行うだろう。
ところが、アメリカに対峙しているイランとしては国内世論の抑え込みの為にも、両者に頭を下げることはしないだろうと思われていたが、時日を経ず、誤射を認めた。この点からも、イラン側も問題の肥大化を望んではいないことが窺える。

これは一つの暴論であるが、イランの誤射はイラン側のミスであるとしても、賠償金は相当額にのぼると予測されるし、イラン側が賠償金の支払いに応じるとも思えない。ただし、イラン側がミスだと認めた以上、日本が賠償金の一部でも負担してはどうか?と思うのだ。
イランのミスの尻拭いを日本がするのもおかしな話だとするかも知れないが、日本がこのウクライナ機撃墜問題の解決に乗り出せるとしたら、賠償金の肩代わりというのが良いように思う。勿論、見返り無しにそのようなことは行えない。
その見返りは二つあると考えている。
一つは、アメリカとの緊張関係が継続する間、イラン革命防衛隊とイラン海軍は日本船籍のタンカーに危害を加えないこと。
もう一つは、アメリカとの紛争の一応の妥結点を模索し、問題の鎮静化を図ることだ。
前回コラムでも触れたように、アメリカにとってもイランにとっても、日本という大国が仲介に乗り出せば、両者の体裁を取り繕うことは可能であり、日本が仲介したとなれば、ロシアと中国以外は文句は出ないだろう。

ここでのロシアの立ち位置とプーチンの内心を邪推することは、別の機会に譲ろうと思う。