倉沢良弦『ニュースの裏側』

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アベノミクスは失敗か?

サイモン・レイ・ルイス(Simon WrenーLewis:Economics Department and Marton College Oxford)が、景気後退時の政府と中央銀行の対応について、誠に面白い指摘をしている。
欧州とアメリカのマクロ経済学者の視点の違いを見られるようで面白いのだが、同時に、アベノミクスが実施されている日本でのアベノミクス後を予測する上でもとても興味深い。
彼の説は、少なくともポール・クルーグマン(Paul Krugman:CUNY Graduate Center)やベン・バーナンキ(Ben Bernanke:第14代FRB議長)が言う統合政府論がいかに現実的で合理性に富むものか?を暗に示しているとも言える。
2008年の世界的なグローバル金融危機において、欧州各国が行った政策は、各国の失業率の悪化や通貨危機に歯止めをかける意味で適切であったし、最も大きな痛手を被るはずのアメリカですら、金融危機後の適切な対策が正しかったことを、現在の好景気が示している。
サイモンは、景気悪化による財政赤字に対し、緊縮財政を行うのは禁じ手だと言っている。禁じ手が言い過ぎなら、緊縮財政はやってはならないことだと指摘しているのだ。
つまり、税収がままならないから緊縮、つまり財政をケチってしまうと、失業率の悪化と賃金の上昇にブレーキがかかり、更なる国内経済の悪化をもたらすという意味だ。
イギリスは首相が交代することで、これまでの緊縮財政から一転していくのではないか、Brexitが成功するか否か?はボリス・ジョンソン自国第一主義が功を奏するのではないか?という淡い期待感があるのも事実で、閉塞感に包まれたイギリス経済が好転する可能性が見られている。
サイモンは、その場合、中央銀行とイギリス政府を例にとり、違いに景気悪化の責任を押し付けあったり、互いの動きを牽制し合うことは得策ではないと指摘しているのだ。
クルーグマンバーナンキのように、統合政府論による中央銀行インフレターゲットの手法は、決して間違ってはいないという指摘は、そのまま、現在のアベノミクスを肯定するものである。
サイモンは、結局のところ、そこしか手立ては無かろうと言っているのと同じだ。
彼の言い分が正しいか間違っているかはイギリスではまだ証明されていない。彼のようにMMTを肯定的に捉えている経済学者にとって、文字通り日本は立派な実験場と言えるのだが、彼の説を借りれば、統合政府で中央銀行インフレ目標を達成するなら、同時に緊縮財政を止めるべきだとも捉えられないだろうか?
アベノミクスはまだ期待感以上の結果は生んでいない。であるなら、一定程度の期限付きで、財政出動に舵を切る必要があるだろう。
少なくとも、現在の日本政府には、その余力があるとみるべきだ。