倉沢良弦『ニュースの裏側』

いろいろ、書いてます。お仕事のご依頼は、ryougenkurasawa@gmail.com。

自民党支持者こそ、意識転換が必要だ

デフレ脱却は2013年から始まっている

 

30年間、日本はデフレ社会だった。

それに慣れっこになったが故に、今のコストプッシュインフレへのアレルギーがある。それはまごうかたなき事実だ。

マスコミも識者もSNS界隈もそうだ。だから、所得が低い人に対して手厚い保護を与えよと大合唱が始まる。それはある種、私もそう思うところがある。

岸田政権は、所得税非課税世帯を中心に、前回の給付金に加え、追加で7万円の給付を行い、来年6月を目処に一人当たり4万円の所得税と住民税の減税を行うと打ち出した。

これに対し、今国会で年内の措置に踏み切るべきだとか、国民民主党の玉木代表が打ち出したトリガー条項発動の凍結解除を年内に行い、年末調整や確定申告に間に合うようにすべきだとの意見もある。

いずれにせよ、一昨年、昨年の税収増分を国民に還元すると言う意味では、非常に有効な政策だと感じる。

ただ、この政策に対する有権者の反応、取り分け自民党支持者の反応は鈍い。それが、政権の支持率に現れている。

 

テレビ朝日「内閣支持率」

 

臨時国会で決定した補正予算についても、内閣の支持率を見る限り、国民の支持は得られていないと言うのが実情のようだ。

これには様々な要因があるとは思うが、前述のインフレアレルギーがあるように思えてならない。日本人は、30年間のデフレ社会に慣れっこになってしまって、インフレ悪魂論が我々の意識に底流にあると思えてならないのだ。

それが、過剰な反応に現れている。

一方、日本経済全体で見れば、GDP(名目)は着実な伸びを見せている。世界と比較したドルベースで見れば、伸び率に落ち込みがあるじゃないか、と言う意見もあるが、自国通過建で見れば、実はドイツと日本はほぼ同程度の伸びを見せている。

 

日本のGDP(日本円)

 

現在GDP世界3位の日本であるが、間も無くドイツに抜かれるだろうと言うけれど、それは為替による影響によりドル建てで見た場合の問題だ。輸入に経済の大多数を依存しているとか、人口が少なく外的要因に左右される経済の国ならともかく、日本のような国の場合、ドルベースのGDPが少々上がろうが下がろうが、あまり影響はない。

むしろ、国民の意識の根底にあるデフレマインドの方が問題で、このデフレマインドを転換できないまま30年間を過ごしてきたことを自覚した方がいいのだろう。

デフレマインドが厄介なのは、消費者だけでなく、企業もそうであり、本来、国民生活を上向かせなければいけない政治家もデフレマインドが染み付いてしまっていることだ。また、それら政治家を批判する立場のマスコミも、同じくデフレマインドが当たり前になっている。

だから、今回のような外的要因のインフレ局面に右往左往し、最終的には政治にその責任を求める。そして、有権者も同じで増税の気配を感じ取ると、一斉に増税反対の論調になる。

実際に、岸田政権が政権発足以後、増税したことはなく、ガゾリン価格の抑制、困窮世帯への給付、製造業の国内インフラ整備に対する補助金を出すなど、積極的な財政出動は行なってきた。もちろん、金額の問題はあるにせよ、岸田政権が発足して以後、増税は行われていない。

 

岸田政権の政策は「デフレからの脱却」の一点突破

 

財政出動の政策面で、デフレにどう対処するか?が前提となった政策、予算、補正予算の枠組みになっていることにも注目が必要だ。というのも、税収が上昇するという経験自体を政府も財務省の役人も国会議員も忘れている。政策は常に税収が上向かない前提での政策立案になってきた。また、円高が定石だった為、為替による影響のインフレが怖くて仕方がない。だから、変に日銀介入などの意見が飛び交う。

問題はGDPデフレーターの数字であって、4〜6月期の伸び率は、直近の資源価格の高騰と為替の影響を受けているだけであって、この急激な伸びを危険視する必要は無い。

直近のGDPデフレーターに関しての分析は、第一生命経済研究所のエグゼクティブエコノミスト、新家義貴氏の論考を参照して欲しい。

 

加速するGDPデフレーター

 

名目GDPの伸び率はそのまま、税収増に繋がる。

この動きはコロナ禍から脱しつつあった2021年頃から見え始めており、コロナ禍を乗り切り通常の社会生活が戻った2022年から一気に上昇に転じている。どうして2021年からGDPデフレーターの伸びが見られたかと言うと、実はGDPが上昇すれば税収増が起きることと不可分だからだ。世界経済を牽引してきた中国経済が後退局面に入ったとは言え、やはり円安基調による輸出の伸びは大きく影響を与えていて、同時に中国を中心にしてきたサプライチェーンの再構築が進む中、製造業の国内回帰が進みつつあり設備投資が増加しつつあることも影響があるだろう。

 

設備投資、最高31兆円 今年度16.9%増

税収増の面でも、国会の予算委員会では、今般の補正予算の枠組みの議論の中で、鈴木財務大臣が22年度の税収の上振れ分は、国債の償還等に使い、財源は無いなどと国民を馬鹿にするような答弁を行い、物議を醸した。

と言うのも、23年度の税収は22年度を更に上回るとの見方が大半を占める。

 

昨年度税収、71兆円超え=3年連続で過去最高―法人、消費、所得税が軒並み増

 

これは時事通信が伝えた2022年度分の税収の伸びを報じた記事だが、2023年度は更に3〜5兆円の上積みがあるのでは、と予想されている。

世界経済がコロナ禍から抜け出したと言う問題もあるだろうし、為替差益が飛躍的に伸びたと言う側面もあるだろう。

ただ、経済政策の最も重要な点は、賃金と求人倍率の推移だ。

 

完全失業率、有効求人倍率

 

コロナ禍の影響で有効求人倍率は一時的に落ち込みを見せているが、これはサービス業全般が求人を抑えたことによる影響だ。ところが、完全失業率はほぼ影響が出ていない。一般的なマクロ経済学の指標から言えば、完全失業率3.0%以下は完全雇用状態であり、簡単に言うと病気等により働ける状態に無い人、自らの意思で働くことを拒否している人を除く、すべての人がなんらかの仕事に就いていることになる。

その上、有効求人倍率が1.6倍程度あると言うことは、日本は今、労働力が決定的に不足している状態なのだ。

別言すれば、要するに経済は回っているのである。

では、問題は賃金だと言う人もいるだろう。

実は、今年度、大企業の89%、中小企業の84%が賃上げを行っている。

 

2023年度の「賃上げ」実施、過去最大の84.8% 「賃上げ率」5%超、中小企業が37.0%で大企業を上回る

 

確かに賃金の伸びがインフレに追いついてないと言う指摘もあるだろう。

実質賃金は上がってないじゃないか、と言う指摘だ。

2023年度のインフレ率は為替の影響を受けていると言うのが、正直なところで、2021年から数字的には円安基調とインフレ率の上昇は相関している。

インフレ率が急激に伸びる一方で、2021年から中小を含むほぼ85%程度の企業は2.5%程度の賃上げに踏み切っている。インフレの上振れ分がごく僅かに追いついてないと言うのが実情だ。

今般、岸田政権が補正予算所得税と住民税分、一人当たり4万円の減税に踏み切った。加えて、所得税と住民税の非課税世帯に対して7万円の追加給付を決めた数字の根拠は、インフレに追いついていない実質賃金の不足分を補う目的がある。

課税世帯については、世帯の人数にもよるが、平均年収の5.0%程度が減税される計算だ。

 

以後、

 

・今は時代の転換点

 

続きはこちら → 倉沢良弦『ニュースの裏側』