倉沢良弦『ニュースの裏側』

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今回の新型コロナウイルスがもたらすものは、好景気?

アメリカは大統領が非常事態宣言を行い、歩調を合わせて欧州各国も他国からの入国制限を行いながら、非常事態宣言を相次いで出した。
アメリカはその宣言と合わせて、経済対策に5兆円規模の予算を準備したと言い、FRBは3兆円以上の国債引受を表明した。
日本においては、サプライヤーとしてのChinaは機能不全を起こしており、安倍総理もChinaへの依存から大きく脱却する道を模索するよう提言することになった。
実際上、日中貿易に及ぼす影響は大きく、住宅関連では中間材の輸入が止まっているために、工事の受発注、完工受け渡しが遅れていて納期延長を強いられているケースが生まれている。
現在、直接的な打撃を受けているのはサービス業で、インバウンド効果の低下と国内観光客の低下、商業施設へ外出する人の移動への心理的影響等であるが、加えて住設関連企業への打撃、中間材を必要とする製造業への影響が出始めた。
China依存に警鐘を鳴らす声は数年前から起こっていたが、それが現実的な問題として表面化したのが今回の新型コロナウイルスショックだ。
Chinaへの設備投資によって人件費抑制に舵を切ったことで、日本はデフレから脱却できない経済が長期化している。リーマンショック以降、大規模金融緩和に踏み切れなかった麻生政権を引き継ぎ、民主党政権の3年間を悪夢と評する最大の要因はこのデフレ不況の長期化にある。一方、欧米諸国は大規模な金融緩和を行い、リーマンショックを乗り切ってきた。購買力平価議論の一つであるビッグ・マック指数(2019年度)は米ドル5.74ドルに対し、日本は3.54ドルだ。勿論、経済のグローバル化の現在、各国の景況判断に一物一価の無意味さは多くの経済学者の指摘するところだが、実際上、日本のデフレを象徴していることは事実だ。
こういったファストフードの調達価格だけでみても、日本のデフレ状況は深刻であったが、加えて製造業のグローバルサプライヤー体制が曲がり角に来ていることを、今回の新型コロナウイルスショックが如実に示したと言える。ここ10年来の動きとして電機関連の製造業が、徐々に生産拠点を東南アジア諸国に移してきたが、大勢としてはまだまだChina依存の状況から脱したとは言えない。
また、有効求人倍率、失業率の低下等を見ても、数字的には好調に推移し、税収全体も過去最高を記録していたとは言え、まだまだ実体経済はデフレから脱却しきったとは言えない。そこに昨年10月の消費増税心理的な追い討ちをかけてしまった。実際、昨年10−12月期のGDP速報値は、年率換算で−7.1%という数字になった。財務省の見解としては、自然災害の影響が大きいという方便を使ったが、これは明らかに消費増税の影響だ。減税悪玉論の財務省は是が非でも税収増を行いたい。過去最高の税収を記録した2018年を基準に、これ以上は消費増税待った無しというおよそ国民感情とはかけ離れた判断を政府に強いたのだ。その判断の誤りを財務省が認めることは、絶対に無い。そういう殊勝な省庁ではない。

その最中、アメリカは大規模な景気対策を打ち出した。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200318/k10012337041000.html

総額は100兆円規模にのぼり、最大130兆円まで見据えているとの話も出ている。
今回の新型コロナウイルスショックと、リーマンショックの最大の違いは、終わりが見えているということだ。金融システム崩壊のリーマンショックと違い、いずれ終わりが見えている現象は、政府と国民が一丸となって乗り切るしかない、という一致した世論形成が可能になり、国民の中に動揺が広がる可能性は小さい。
つまり、アメリカ政府は、この新型コロナウイルスショックの後を見据えているということだ。

日本政府は、経済対策を打ち出すのが19日を予定している。手始めに日銀は総額年12兆円規模に拡大するという、ETF買い入れ増額を行うと表明した。政府発表の前に日銀が独自の政策を打ち出すことはないが、黒田総裁は更なる国債買い入れも検討していると、含みを持たせた会見を行った。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200316/k10012333711000.html

19日の首相会見の前に、既に国民一人当たり数万円を配るとか、消費税減税を行うといった真水投入の景気対策を打ち出すとの憶測が流れている。以前に拙コラムでも指摘したように、消費税減税策は、家計に直接的な負担軽減が可能となるという意味では、効果があるものと考える。
一方、庶民生活への景気対策に加え、China依存から脱却し、企業の国内回帰や他の東南アジア諸国に活路を見出すとなると、中長期的な対策も講じなければならない。その意味で、インフラ整備事業の促進と併せ、企業支援の枠組みとして来年度本予算の見直しと補正予算額の増額はやるべきだろう。
日本はまだまだ、デフレ不況を完全脱却したとは言えない。国民負担の軽減と、財政出動がまだまだ必要な状況下にあることは間違いない。
自民党議員が30兆円規模の対策を政府に進言したが、その金額はバルブ崩壊時まで遡らなければならないほど、これまで無策であった政府への罰金のようなものだ。加えて、今回の予想だにしなかった新型コロナウイルスショックは、一面でこれら遅れていた経済対策に喝を入れるものともなる。
日銀の更なる国債引受増額も引き続き年80兆円規模に戻すべきだ。
3月16日に行われたG7緊急会議で何が語られようと、世界中で新型コロナウイルスショックが拡大し、終息期が見えない以上、決定打となる方向性は出ていないと見るべきだ。
つまり、G7諸国はアメリカと日本の動向を注視しているというのが、本音のところではないだろうか?
EU諸国に余力は無い。
トランプ大統領安倍総理会談の中身が公表されるのは、ずっと後の時代かもしれないが、少なくとも緊密な関係にある両者の思惑は、既に新型コロナウイルスショックの次を見据えていることは間違いないだろう。
今回の新型コロナウイルスショックに、怯える必要も警戒する必要も無い。既に日米は次を見据えて動き出している。
また、国内におけるウイルス感染への警戒感は断じて緩めるわけにはいかないが、終息期が見えているのも事実なのだ。