倉沢良弦『ニュースの裏側』

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リーマンショックを超えたコロナショック

リーマンショック(In the financial crisis 2007-2008)時の金融ショックと、今回のコロナショックの違いは、直接か間接か?の違いと言えないだろうか?

リーマンショックは、アメリカの住宅バブルが崩壊しアメリカで開発されたサブプライムローンが破綻したことで、アメリカ史上最も大きな64兆円の負債を抱えたリーマン・ブラザースの倒産劇に始まる世界的な金融ショックを言う。元々、世界的な金融収縮が起きていた上に、リーマン・ブラザースに対するアメリカ政府の資金供給も虚しく、また候補に上がっていた世界の企業のリーマン買収も失敗に終わり、世界中の金融システムにアメーバのように侵食していた投資市場における暴落と信用収縮が起きた。

 

ここで、今一度、お金とは何か?について、考えてみよう。

これまでにも何度か触れてきたように、お金というのは、政府だけが市場に供給することができるものだ。厳密に言うと、政府が発行するお金は政府紙幣で、経済規模が大きくなることで世の中に溢れるお金の、最初の流れを作り出すものだ。そのお金というのは、そもそも何か?ということだが、お金とはデータなのだ。預金通帳に記載されている数字が正確な意味での現金である。では、紙幣とは何か?と言えば、これが信用創造上の借用証書だ。つまり、日本銀行券と記載をすることで、日本政府がその価値を担保している。ここで大事なのは日本国ではなく、日本政府がその価値を担保しているということだ。

よく、YouTubeや何かで、札束を見せびらかしている人を見かけるが、あれは借用書の束を見せびらかしているに過ぎない。ミクロ的に解釈すれば、札束をいくら持っていても、グローバル経済とマクロ経済上にインフレが起き続ければ、その借用書の信用は落ち続けるので、価値が下がり続けていることになる。お金を札束で持ち続けることは、お金の価値を下げ続けていることになるのだ。

つまり、お札をいくらたくさん持っていても、あなたのお金は増えない。その札束を銀行に持っていくと、日本銀行が発行する信用という価値を市中の銀行が認めて、その借用書を銀行が引き受けてあなたの通帳(口座)に数字を書き込む。この書き込まれた数字が現金、実際上の価値のあるお金だ。これは、同時に銀行にお金を貸すことにもなり、その借りたお金を運用して、銀行は営業利益を得る。その運用益の一部を分けてもらうのが銀行金利だ。

経済成長が進めば、物の価値が上がる。つまりインフレが起きる。仮に銀行の金利が年利1.0%で物価上昇が2.0%なら、実質金利はマイナス1.0%になる。現金を口座に置いておいても価値が下がる一方なので、物に変えた方がいい、ということになる。それが過度に進んだのが、1970−1990年代に起きた土地バブルだ。地価が高騰したことで、現金を土地に変えた方が価値が上がるから、我も我もと土地を買いあさり、需要に対して供給量が少なければ経済原理で土地の価格が更に上がった。しかも、そこに銀行自身が投資を行い、また資金をジャブジャブ投入したことで、為替市場、資本市場の中で土地価格とそこから得た利益を投資した株価だけが実価以上の高騰を起こしてしまった。その資金ですら、不動産を担保に得た資金であるため、一旦、土地価格が破綻すると、たちまちその担保価値が下り、資産の目減りを恐れた金融機関と投機筋が投げ売りを行って価格が暴落した。これをバブルが弾けた状態と言う。ここにまともに被害を被ったのが、そのような行き過ぎた金融システムの裏側を理解せず、資産価値が上がり続けると信じた個人や企業だ。物の価値が増大しすぎると、そこにつながっているお金の価値が下がる。お金の価値が下がるというのは、市場にお金が増えている状態だ。ただこのお金はあくまでも信用創造、つまり1万円には1万円の価値があるという信用に基づいて創造された価値であって、裏付けが物だ。多くの企業、個人、投資家が金融機関を通じて物を担保に資金供給をしてもらっていた。その物に価値が無くなったら、担保価値が下がるので、貸していたお金を返せ、という話になる。全ては借金によって供給されていた資金は一気に金融機関に引き戻されるので、そのお金の流れが収縮したというわけだ。

わかりやすく、バブル崩壊を取り上げたが、その後のリーマンショックの場合はサブプライムローン、つまり市場での信用保証の乏しい金融商品を、プライムローンというより信用価値の高い金融商品と組み合わせることで投資資金を得ていた商品だったが故に、裏付けの住宅バブルが崩壊したことで、世界中で販売されていた金融商品に影響が出てしまった。ところが、転売に次ぐ転売によって資金供給されていた金融商品であったため、そもそも各国の金融機関が自分が何を保有しているか商品の中身を理解していない状態だったため、売るに売れず、不良債権化してしまった。金融システムは、とてもでは無いが全体像を把握することは不可能なほどに、様々な投資商品が様々に絡み合っている。一旦、資金供給の流れが止まると、お金の流れ自体が止まってしまい、その国の経済を圧迫する。そこで、リーマンショック時、各国の中央銀行は大規模な金融緩和を行い、大量の真水(実際のお金)を大量に供給することで、出血を最小限にとどめた。

市場に大量のお金を供給するということは、それが回り回って最後には庶民生活に反映する。

リーマンショック時の日本政府の反省は、その徹底的に量的緩和しなければいけなかった時に、緊縮財政論者の口車に乗せられて大規模な金融緩和が出来なかったから、結果的に、バブル以降のデフレ不況からの脱却ができていないという点だ。

 

今回のコロナショックは、リーマンショックのように金融システムに直接的な影響は、現時点では与えていないという見方で、それは私もそのように愚考するが、仮に現在の自粛要請が長引けば、そうも言っていられなくなる。サービス業、飲食業等に影響が出ている今、政府が主導するような大規模な給付を広く国民に行うことの重要性はここにある。

私が以前から指摘しているように、今回のコロナショックは経済ショックであって、これまでのデフレ不況から脱却する絶好のチャンスなのだ。

今回の給付金、支援金、無利息無担保貸付は強力な政府紙幣の発行であって、仮に政府が大量の国債を発行したとしても、年率2.0%程度の適正なインフレを起こすことが、政府の根本的な狙いだ。つまり今回、政府が用意したお金は使わなければいけないお金なのだ。使ってこその価値がある物なのだ。

コロナショック後、国内経済は止まっていた経済活動が戻るのみならず、企業は減少した収益の回復のための方策を打ってくる。国民に広く財源が行き渡るので、生活のためにこのお金が使われる。それは回り回って税収に繋がるし、国民自身の賃金に跳ね返る。しかも、ほぼ使われることが分かっているお金なので、死蔵はなく、経済の停滞は起きない。

繰り返すが、このお金は回り回って国民の賃金に跳ね返るので、そうなれば各個人の銀行口座のお金が、増大する。今回の給付金の一番の狙いはそこにあるのだ。